英語で日本を学ぼう No.031 松下村塾・山口

松下村塾 Shoka Sonjuku Private School

山口県萩市にある吉田松陰先生の私塾、松下村塾に行ってまいりました。

 

松下村塾は松陰神社の境内の中にある小さな塾です。

 

この小さな塾に集まった人たちが、日本を変革する信念を共有し、学んでいました。

 

そして結果として近代日本を生み出す大事を為したということに感銘を覚えます。

 

 

では、そんな日本の行く末を決めるうねりを生み出した塾の授業とはどんなものだったのでしょうか?

 

 

 

松陰先生の教え

 

近代日本を担った人材が育った教育は、厳しい課題を与えられるものではなかったようです。

 

松陰先生はみんなに語り掛けるように話をし、ひとり一人の意見をじっくり聞いて、答えを引き出すようにしたといわれています。

 

 

我々は長州藩だ。だから関ケ原からやろう。君たちならどうする?

 

 

このような課題を提示し、様々な意見を喧々諤々と戦わせたのでしょう。

 

 

疑問を投げかけ、本質的な意見を引き出そうとするのは、古代ギリシャの問答法(ディアレクティケーdialectic)と似ているでしょうか。

 

また学校教育で話題となるディスカッションやケーススタディとも通じるところがあるでしょう。

 

 

ですが、いまの日本の公立学校で松下村塾と同じ生徒が育つことを期待するのは無理があります。

 

現在の公立学校の歴史教育では「マルクス史観」がいまだに優勢で、宗教や信仰などは重要度の低い要素とされています。

 

さらに受験科目として歴史が貶められただの語句の丸暗記や点数稼ぎのコツが横行している体たらくです。

 

そのような状況では自分たちのご先祖様が歩んだ歴史をしっかりとふりかえることもできません。

 

 

海外に勝手にあこがれて、形式や方法だけまねても「信念」「情熱」「」「義侠心」がごっそり抜け落ちています。

 

欧米諸国が暴力を使って世界中で弱者を支配し、富を搾取し、傲慢にふるまうのを日本では許してはならない」との強い思いが共有できていればこその「松陰先生の教え」なのです。

 

 

 

教育とは先生と生徒で協力し課題へ向き合うこと

 

私は松陰先生のやり方だけがすぐれている教え方だとは思いません。

 

 

日本仏教には「人々を救う」という教育の本質ともいえる大きな課題があります。

 

日本の歴史の中のお坊さんたちには教育者としてもみても偉大な方々が多くいらっしゃいます。

 

 

最澄さんのように、日本を支える大きな基盤を築きながらも、謙虚に後継者に託す方もいらっしゃいます。 

 

空海さんのように圧倒的カリスマ性と天賦の能力で多くを惹きこむ方もよいと思います。

 

法然さんのように本当のやさしさゆえに誤解を生みながらも、時間をかけおだやかに誤解を解き、広く人々を救う方もいらっしゃいます。

 

道元さんのように人里はなれたところであえて自らを厳しく鍛え上げることにすべてをかける姿勢をもって人を導く方法もあります。

 

日蓮さんのように激しい信念をもって、逆境をものともせず教えを説く方もよいと思います。

 

 

 

松陰先生のやり方が通用するには「生徒一人一人が責任をもって自分の意見をいい、皆の意見を聞き、チームとしてとるべき行動を決定し、実行する」という優れた能力、高い意識そして行動への決意が共有されている場合に限ります。

 

教育者としての松陰先生は、やはり高杉晋作や久坂玄瑞といった志ある生徒たちに支えられて輝いたといえると思います。

 

 

 

強い言葉が、強い思いをつくる

 

松下村塾の解説の中で、日本の英語教育ではなかなかお目にかからない表現があったので紹介します。

 

 

「松下村塾では、身分にとらわれず集まった若者達を、強い志と誇りをもって行動する日本人に育てた」

 

The Shoka Sonjuku private school taught the youth who gathered there that, regardless of their social status, they were Japanese who could take action with determination and pride.

 

 

文章それ自体はとりたてて難しいわけでもなんでもありません。

 

しかし「強い志と誇りをもって行動する日本人 Japanese who (could) take action with determination and pride」というような強い思いを感じる言葉を日本の英語教育でどれほど目にするでしょうか?

 

 

会話に偏った英語だと「世間話」の運用能力程度で終わります。

 

技術論文を読むだけの英語なら、知識・理屈をもつ人間で終わります。

 

 

今の日本になによりもかけているのは、歴史を実際に動かし懸命に生きた人々の生き様や信念を感じる言葉でしょう。

 

英語教育も歴史教育も「人間が生きようとする強き思い」が欠落しているようにみえます。

 

それゆえ、事実の羅列の歴史教育と世間話のための英会話に偏るのです。

 

「日本人が英語がヘタだ」というのは結局、「魂を揺さぶる言葉」をいかに多くの日本人がもっていないか、に最後は帰結するのではないでしょうか?

 

 

あるま・まーたの生徒さん達には歴史ネタや英語格言もお伝えしています。

 

そうすることで、すこしでも視野を広げ、逆境での支えとなればと願っています。

 

 

 

辞世の句は両親と弟子たちへ

 

こちらは松陰先生が「先立つ不孝を両親に詫びる(apologize for the impiety of preceding his parents in death 」ために送った手紙の一部です。

 

 

親思う こころにまさる 親心 きょうの音づれ 何ときくらん

 

A child may love his parents, but the love of a parent is greater.

 

How this news must sound in the heart of a parent.

 

 

この時代は常に死と隣り合わせでした。

 

なにか大きなことを起こせば、それに対する反動もあり、命を失うことも覚悟していたでしょう。

 

死ぬことは怖かったでしょうが、それよりも「孝」を果たせぬ思いがつづってあります。

 

 

 

また弟子たちには留魂録の中で、次のように辞世の句を詠んでいます。

 

 

身はたとひ 武蔵の野辺に朽ちぬとも 留置まし大和魂

 

 

教育者とは知識・方法を伝えるだけの人ではなく、「次世代に大切ななにかを託す人」なのでしょう。

 

 

財を残す人は下、仕事を残す人は中、人を残す人は上。

 

 

これは、後藤新平の言葉ですが、金でもモノなんでもよいので、一人一人が後世のために何かを残せる文明が発展するのは自明の理だと思います。

 

 

 

松陰神社 Shoin Shrine

松下村塾の奥には松陰神社が建っています。

 

神社は後から建てられたものですので、社殿を大きく作ろうとはしていないのでしょう。

 

実際にこの場所で幕末の志士たちが学んでいたのは松下村塾ですから、そちらがメインであるべきですし。

 

 

松下村塾 英語版・日本語版の案内資料

松下村塾 英訳と和訳の説明・解説

私塾: private school

 

 

村塾の双璧: two mainstays of the school

 

mainstay は「頼みの綱、大黒柱」といった意味ですが、船などのメイン・マストを支えるロープのことだそうです。久坂玄瑞と高杉晋作の2人のことですね。

 

 

尊皇の大義: the importance of restoring the Imperial rule

 

imperial rule は文脈によっては「帝国主義による植民地支配」にもなりえます。ここではあくまでも幕藩体制ではなく「尊皇」の意味です。

 

 

山鹿流兵学の師範: logistics instructor of the Yamaga school

 

logistics はビジネスでは「物流」と訳されますが、軍事では「兵站 へいたん」となります。つまり、複雑な業務や任務を組織化し実行すること、という意味になります。

 

 

奇兵隊: Kiheitai battalion

 

「battalion 大隊」というのは「独立した活動を行うことができる最も小さな戦術単位  the smallest military organization capable of limited independent operations」のことだそうです。

 

 

四境戦争: Shikyo Battle 

 

この言い方は長州藩から見た場合の「第二次長州征伐 Second Chōshū expedition」のことです。もちろん長州征伐とは幕府サイドの言い方です。

 

 

安政の大獄: Ansei Purge

 

purge はきれいにする、という意味です。共産党の支配下の国で行われた反体制派に対する虐殺を「粛清 purge」とよびます。

 

ちなみにキリスト教(カトリック Catholicism)には煉獄(れんごく purgatory)という場所があります。地獄 hell よりも軽い罪のものが行き、罪を贖ったのちに天国 heaven に行くところのことです。

 

 

幕末: the end of the Edo era

 

 

幕末志士: Meiji Restoration leaders

 

明治維新は革命ではなく「本来の形に戻す」ということで restoration が使われます。つまり王政復古ですね。

 

 

幕府: Shogunate

  

日本を題材にしたBBCのドキュメンタリーなどでも shogun はよく使われています。日本文化の浸透すると日本語をそのまま英語で使える利点があります。

 

 

アメリカ軍艦: American warship

 

軍艦自体は warship ですが、この時代アメリカが世界を威圧するために使ったのは、大砲を装備し、蒸気機関 steam engine により長期航海の可能な船です。

 

そのような軍艦を世界中に見せびらかして有利な外交条件を引き出そうとするアメリカの外交方針を「砲艦外交 gunboat diplomacy」と言います。